部屋の片隅で立ったまま様子を見ていた私に、牧師は優しく微笑みかける。

 施設で会った神父の無機質で尊大な印象とは違い、まだ若いこの牧師の目には、穏やかな温かみが感じられた。

「慣れてるんだな……」

「ここは国境に近いですから、ときおり傷ついた兵士がまぎれてくることがあります。近くにはもう他に、あまり人も住んでいませんし……私は父が昔、医者をしていましてね。このくらいの処置は心得が少しあるんですよ」

 そう答えながら、牧師は私にも湯のたたえられたボウルとタオルを差し出してくれた。

「私は外に出ていますから」

 そういって牧師が部屋を出た後、改めて自分の体に染み付いた赤黒い血痕を見て、私の中に再び闇が広がる……






 ただひたすら。その罪の痕を消そうと。

 私は無我夢中で体を拭いた――