「ありがとうございます。ここなので結構です。」

と、彼女は
俺が目にしたこの白壁の塀を指した。

えっ!?

マジ!?

ここって、たしか…


俺がこの桜町に赴任して、最初に先輩から、


この町の目印として覚えておくよう言われた邸宅。


何年も続く旧家。



佐戸田財閥…



この辺り一帯の土地は、


ほぼ佐戸田財閥のものと聞いたことがある。

苗字を聞いて
もしや、とは思っていたがやはりそうだったか…


「あ…いえ…
市民の皆さんの安全が大切ですから。」


驚きを隠して、彼女に、笑顔を向けた。


「本当は、お礼にお茶でもごちそうしたいのですが、
勤務中なんですよね?」


上目遣いで、尋ねる彼女の黒い瞳に心が揺らいだが、惜しみながら断った。


残念…


お嬢様だけど…
なんかイイよな彼女…



まだこの時は、


あんなにも彼女を


愛することになるとは


思わなかった…