「待たせたな、食事の用意が出来たぞ。どうぞコチラヘ」
部屋に来たのは、ソフィア殿ではなくメルセデス殿であった。
「ソフィアが目眩を生じたと言ったものでな」
「目眩を?」
その後、彼は何も言葉を語らず歩き出した。
俺も黙って彼の後ろに付き、石造りの廊下を歩み進む。
奥に扉が見えてきた。
キィー
静かに扉を開けると既にソフィア殿は座っていた。
「すみません、お迎えにあがれなくて」
「具合はもう大丈夫なのか?」
「ありがとうございます。もうすっかり大丈夫ですの」
「それは良かった」
「さぁ、冷めないうちにお召し上がを。ソナタのお口に合うかは分かり兼ねるがな」
俺とソフィア殿との間に情が沸く事のないように、メルセデス殿が間に立ちはだかったように見えた。
長テーブルの奥にメルセデス殿
その横角にソフィア殿
俺は、メルセデス殿と対称になる位置に案内された。
しばし、食事を口にず考え事をしていた
「どうされました? トルティージャはお嫌いですか?」
「いや、そうではない。すまぬ」
彼女の一瞬曇った表情が和らいだ。
「毒は入れてはおらぬ、安心したまえ」
「いただきます」
ここでの食事はとても静かなものであった。
窓辺に射し込む月明かりが尚も一層この空間を不気味なものに変えている気がする。
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