ある日。 「情けないな」 「すみません……」 藍は風邪を引いた。 看病をできる者がその日は椿姫しかいなかった。 「寝てれば治りますよ…」 「そうか…」 椿姫はそう言うと、すぐに部屋を出てった。 藍は布団の中でうなる。熱を出すのは何年かぶりだった。 ―――頭イタイ…キモチ悪イ…… 夢に見るのは、小さい頃の記憶。 ―――熱を出した時は、“特別”だった。 お母さんは仕事を休んでくれて、ずっと傍にいてくれた。 苦しくても、つらくても、お母さんを独占できる唯一の日は、甘えることができた。