龍の世界

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幾斗と麻綾が屋敷に入った後、母屋にある皇也の執務室には、皇也、柳瀬、浅見、湯川、藤堂の五人が集まっていた。



桜千会の主要幹部が揃う光景は異様な雰囲気を放っていた。









「報告は上がって来ましたか?」


「いや、まだ何とも。柊と葵が追っているけど、向こうも用意周到に逃げ道を作っているみたいだね…たぶん幾斗と麻綾に接触してきた奴らの足取りはもう…」






柳瀬は皇也の質問に肩を竦めながら答えた。







「そうですか…。浅見の方は何か掴めましたか?」


「現在も監視は続けていますが、今のところ大きな動きはありません」


「ハァ…全く…。中々手強いですね……。このままだと幾斗の方が保ちません…。葎也が煩いので仕方なく行かせることにしましたが、正解でしたね」





皇也は腕を組みながら溜め息を吐く。











「ふふ。葎也は幾斗が大好きだからねぇ」


「まあ葎也はずっと年上の俺たちに囲まれていて、幾斗はあの子にとってただ一人の弟みたいなものですからね。幼い頃は幾斗も本家にいましたし、何だかんだ言って幾斗も葎也には懐いていますから」



柳瀬と湯川の会話を聞いて、藤堂は思い出したように苦笑した。





「黎雅さんそれで相当機嫌悪くなってましたよね」


「あの人が機嫌悪いと加減が無くなるから押さえるの大変だったよな」


湯川がそう言って肩を竦めると、藤堂は可笑しそうに笑う。






「総司はよく八つ当たりされてたね」




柳瀬が苦笑して湯川を見ると、湯川は少しだけ懐かしい眼差しをしていた。















「向こうには葎也の側近もいますし、人手の心配はないとは思いますが、幾斗と麻綾のことは頼みましたよ湯川、藤堂」


「「はい」」




湯川と藤堂は、皇也に向かって深々と頭を下げた。