「麻綾…」
「フッ…──ヒクッ…ヴ───ヒクッ…」
「麻綾?…」
幾斗は私と目を合わせる為に私の腕をほどき、顔を覗き込まれるが、私は気まずくて目線を合わせられない。
しかし幾斗はそんな私の頬に手を添えて、優しく、けれど逆らえない力で顔を上げさせた。
「幾「ありがとう」
「え…」
幾斗の綺麗なグレーの瞳は、真っ直ぐに私を射抜て……
綺麗に笑った──────
「前にも、同じ事を言った人がいた…。まだ俺が、本当に人形みたいに生きてた頃……感情の出し方も、人への思いの伝え方も知らなくて、そんな俺に、今のお前と同じ事を言ってきた……」
『感情を押し込めるな。人は感情を持つから人でいられる。このままじゃお前は壊れるぞ……。壊れて本当の人形になるのか?』
「俺は成長してないな…」
「幾斗…」
「また心配させたな…。でも、前よりずっとましになったんだ…前なら、あいつらの存在を聞くだけで息が出来なくなって意識無くしてた…。あいつの組織と直接会って、黒椿の存在を感じたのに、今立ってられるの、本当に信じられねえよ」
「本当に?」
「ああ…」
(お前が隣にいてくれたから…)
「え?」
「いや、何でもない…本当に平気だから。でも今日は早く休むな」
「うん…」
「ほら、いつまで突っ立ってんだよ。置いて行くぞ」
言葉は嫌みったらしいのに、幾斗の表情はすごく柔らかくて、私も笑って幾斗の手を取った。

