「麻綾?」
幾斗は怪訝そうにこちらを見るが、今の私は俯いていて、幾斗にその表情は見えないだろう…
「どうした?」
その優しい声に涙が出そうになる…
幾斗の声は偶にこうしてどうしようもない位優しくなる。
「麻綾?」
「幾斗…」
「ん?」
「お願いだから…」
「ん?」
「お願いだから、そんな風に隠さないで……」
突然抱きついた私に、琉伊は一瞬体を強ばらせるが、直ぐに力を抜いてくれた。
「麻綾…?急にどうした?」
「……なんで?!なんで大丈夫なんて言うの?!幾斗……震えてるのに……なんで我慢するの?!あんなの、怖くて当たり前じゃん!!…私だって…怖かった……」
気丈に振る舞いながらも白くなるまで握り締められたら綺麗な手…
怯えて焦点の合わない瞳…
その変化はとても小さなものだったけど…
「怖かったよ……体が恐怖で押しつぶされそう……───また…襲ってきたら…どうしたらいいの?!今度は藤堂さん達が来てくれるか分かんないし……私一人の時とか、関係ない友達といる時にあんな事になったら…」
「麻綾…」
私は幾斗の体に回した腕にさらに力を込めて密着した。
幾斗の体温と鼓動が感じられて、ひどく安心する。
「だから幾斗…お願い…お願いだからッ………このままじゃ、幾斗が……」
お願いだから
そんな風に感情を
殺さないで…
そんな事してたら
いつか耐えきれない時がくる
そしたら幾斗は─────
「幾斗が……壊れちゃうよ…」
最後は涙声で声が震えて上手く喋れなかった。

