「着物…」
「お前持ってないだろ?」
「はい…」
私は藤堂さんの言葉に素直に頷いた。
着物なんて生まれてこの方必要になった事ないし、着たのも七五三以来だと思う…
「なんか会頭異常に張り切ってましたよね」
「まぁ仕方ないでしょ。皇也は基本的に幹部との仲は良好だけど殊更黎雅とは昔からの仲でお互い大切な存在だったから、黎雅の大切なものは皇也にとっても同じなんだよ。だから麻綾ちゃん楽しみにしててね」
そう言った柳瀬さんがふわりと私を見て笑った。
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屋敷に着いた私たちは、皇也さんと浅見さんと湯川さんの三人に迎えられた。
「幾斗、麻綾、二人とも無事で良かった…」
皇也さんの顔色は悪く、私と幾斗の頬に触れた手は微かだけど震えていた。
私が気付くんだから、幾斗が気付かない筈がない。
「幾斗…この傷は…」
皇也さんは幾斗の頭に巻かれた包帯をそっと撫でて、ガーゼの張られた方の頬を、そっと包むように触れた。
「大丈夫ですよ…」
「本当ですね?全くあなたはすぐに無理をして……。傷口がまだ塞がっていないのに、駄目じゃないですか。しばらくバイクは禁止ですからね」
「はい…」
幾斗は仏頂面だが皇也さんには反論できないのか素直に頷いた。
「……本当に貴方は…。麻綾は、怪我は無いですか?」
「はい。私も大丈夫です。幾斗が、守ってくれましたから」
「なら良かった…さぁ、仲にお入りなさい。今日は早く休むこと。いいですね?」
「「はい」」
皇也さんに背を押されて、私と幾斗は玄関を抜けた。
母屋を抜けて、離れの渡り廊下まで来た時、私は幾斗の手を引いて立ち止まった。

