龍の世界

私は若桜さんに連れられお兄ちゃんの部屋へ

想像を絶する広大な屋敷は、まるで高級旅館



長い廊下を歩けば、何人もの人が頭を下げて来る


皆が皆、泣いていた




そんな姿を見ると、また涙が滲んでくる

お兄ちゃんに会う決意が揺らいでしまう



そんな私に気付いたのか、若桜さんは後ろを歩いていた私の肩を抱いて歩き始めた


「大丈夫ですよ。黎雅もあなたを待っていますから」




若桜さんは私の背中を優しく撫でて、一つの部屋の前で足を止めた




中からは啜り泣く声が聞こえてくる










若桜さんがスッと襖を開けて、私の背を押しながら部屋に入った




「会頭、」


「会頭…」




私達に気付いた中の人が一斉にこちらを向いた
奥には見慣れた顔が眠っている



「さぁ、通して上げなさい。黎雅の最も大切な方ですから」



若桜さんがそう言えば、私の前に道が出来た




「行っておあげなさい」


その声で私は足を踏み出した










お兄ちゃんを囲むようにしていた人達も、私が近付くと、少し下がって私の場所を開けてくれた




「お兄、ちゃん・・・」












返事のない、優しい顔



綺麗な顔だった



苦痛も何もない、安らかな寝顔








本当に、ただ寝てるだけみたいな








頬に涙が伝い、お兄ちゃんの顔に落ちた







言葉は、何も出て来なかった………





一度流れた涙は、堤防が決壊したように、止まることを知らない









「あ、あ……ああああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!」









お兄ちゃんにすがって溢れたのは、身が引き裂かれる様な絶望だった。