「な、に…」
叫び声が静まった頃に薄く目を開けると辺りは白い煙に包まれていた。
「煙幕だ。体に害はねえが、あんまり吸い込むなよ」
幾斗の声を聞くだけで安心出来た。
「幾斗、怪我はッ?」
「大したことない」
「でも、血が…」
「擦りむいただけだ」
煙が薄くなって来て目が慣れると、幾斗の顔が見えた。
血は未だに流れ出てくる。
幾斗の命の水が…
流れていく…
「幾斗…でも…」
「大丈夫だって言ってんだろ?それに晶人さん達が来た」
「藤堂、さん…?」
このタイミングで、何故藤堂さんがいるのかは分からない。
ただ、私たちは助かったんだ…
あの人がもう私たちの前にはいないことだけが、今の私にとっては安心できた。
「さっきからいた。たぶん見張りが連絡して一番近くにいたのが晶人さんたちだったんだ」
「見張り?」
「何だ、お前気付いてなかったのかよ」
「全然…私に付いてたの?」
「ハァ…」
「…普通の人間が気付くわけ無いでしょ」
幾斗達を基準にされては困る。
気配を消しているその道のプロを気付くなんて凡人の私に出来るはずがない。
「でも…良かった…」
幾斗が無事で…
「幾斗ッ、麻綾ッ、無事かいッ?!」
「柳瀬さん…」
煙幕が晴れて、人影が見えてきた。その中からこちらに駆け寄る影。
「怪我したのッ?!」
「大した事ないですよ」
「駄目だって。ちゃんと手当しなきゃ。傷口開いてないッ?」
「平気…」
幾斗はだんだん面倒臭くなったのか、私から手を離して眉間に皺を寄せている。

