龍の世界



「ごめん……」


「は?」



急に謝られても、私には何に対してなのか分からなかった。





「どうしたの、幾斗?」


「ごめん……」



幾斗は辛そうな顔で、ただ謝るばかり。

私は尻餅を着いた状態から起き上がり、俯いている幾斗の前に座った。






「幾斗……、別に私は大丈夫だよ。この椿に何があるのかは分からないけど、私は今別に何ともないんだから」



そう笑顔で返した私を、幾斗は瞠目して私を見返した。





きっと、今深く詮索されたくない筈だから…

理由なんて分からないけど、いつもと違う、少しだけ弱さを見せる幾斗を問い詰めたくはないと思った。









なのに、幾斗は急に鋭く私を睨み付けた。




ビクッ





冷たく、痛々しい、傷付いたような瞳に、私は体を震わせた……




今まで見たことがない瞳だった────





悲しみや怒り、苦しみが入り混じった、冷たい目─────










「何で、お前…」


「え?」





あの感情を隠す幾斗の声が、有り得ないくらい震えていた。








「何でなんだよッッ!!」


「ぃッッ!!」




幾斗は、突然力任せに私の肩を掴んで、畳に押し付けて来た。

手加減をしていないのか、肩からはミシリと嫌な音が鳴った。





「幾…斗…、痛いッよ…」


「お前ッ、何でッッ、何でそうなんだッ」


「な、に……?」


「お前はッッ、……何で…そんな風にッ…───」




肩の力が緩んだ。


でも未だに幾斗は私の上にいて、起き上がる事は出来ない。