幾斗の部屋も私の部屋も、母屋ではなく離れにあり、簡易キッチンも用意されている。
冷蔵庫には定期的に食材が入れられ、もし無い物があっても、頼めばちゃんと次の日には揃えられていると言う何とも楽なシステム。
ココアはインスタントだが、コーヒーはちゃんと豆から挽いて淹れた。
「はい。お待たせ」
幾斗の部屋に戻れば、ちゃんと服を来ていた。
シンプルな白のTシャツだが、さり気なく高級ブランドのロゴが入っている
幾斗は液晶テレビの前に置かれた無駄に大きい黒の革張りのソファに座り、足を組んで雑誌を見ていた。
それだけなのに凄く良い絵になる。
「コーヒー」
「あ…はいはい」
いつまでも動かない私にこちらを見る事なく命令する幾斗に苦笑し、ソファの前に置かれたリビング机にそっとコーヒーのカップを置いた。
私は床にクッションを置いて座った。
「・・・・」
「何、不味かった?」
一口飲んでコーヒーを凝視した幾斗。
気になって聞いてみると顔を上げた。
「黎雅さんの持ってたコーヒーと同じだ」
そう言われて思い出す
「ああ、そう言えばお兄ちゃんてタンブラーに容れて持って行ってたよね」
お兄ちゃんが帰ってくるのが不定期だったから、毎日ではないが、帰ってきた次の日の朝は、私が淹れたコーヒーと私が作った和食を食べて、そしてそのコーヒーと私が作ったオムライスをお弁当に持って仕事に行くのが決まりだった
毎回同じメニューで飽きないのか聞いたが、これが一番好きだからと言って、結局いつも同じものだった。

