「お前を探そうにもガードが固くてな。手を拱いているところで護衛も付けずに出て来てくれて……」



男は静かに歩み寄って、私たちから2メートルくらい先で止まった。









「馬鹿な奴だな・・・」






男がスッとサングラスを取った。

その目は夜のような濃紺の、どこまでも深い色で、冷たい光は鋭利な刃物のようだった。








「うちの椿姫が、そう簡単にお前を逃がすと思ったか?」



男は笑みを消し、幾斗を真っ直ぐ見つめた。





「ふざけるな。俺はもうあいつの人形じゃない」



幾斗は極めて静かに言う。



「ま、気の毒には思うがな。命令なんだ。俺を恨むなよ」



男がそう言うと、私達を囲むように、墓石や木の影から目の前にいる男のように、黒のスーツとサングラス。皆穏やかな雰囲気はない。




「チッ」


「大人しくしとけ。まだあの傷は癒えてないんだろう?俺は手荒な事はしたくないんだ。まぁ、姫に渡った後は知らねえがな」




男の言葉に、幾斗の体が微かに反応した。

私にはなんの話か全然分からないが、幾斗にとっていい話ではないようだ。











「幾斗…」



「麻綾。お前は逃げろ」



「でもッ!」



「今の俺じゃお前を守れない」




言われてふと幾斗の顔を見た。
顔色は青白く、息も荒い。雨で気温が低く、この男が現れてから傘を手放してしまった為に冷たい雨が直接体に叩き付ける。病み上がりの体には大きな負担になっている筈だ。