「まだ、お前にはあの時の事は言えない。お前には知る権利があるけど、あの話をするのは…まだ早いから…」



“早い”が、幾斗自身がまだ話せないと言う事なのか、私が知る事がまだ早いと言う事なのかは分からなかった。






「でもいつか、時期が来たら、ちゃんと話すよ」



でも幾斗は私の目を真っ直ぐと見て言ったから、私は信じて笑う事が出来た。




「ここで……黎雅さんの前で誓う」


















そして、黎雅さん……




あなたにも誓う──













あなたの宝は








俺が守る───















私は幾斗の言葉を黙って、一文字一句逃さぬように聞いた。






幾斗の目が、どこか遠くを見ていて、でも前みたいに死んだ目じゃなくて、しっかりと私を映していたのに安心した。





「いいよ。待ってる」



私がそう言うと、幾斗が優しく笑った。






「ありがとう」


「どーいたしまして。さぁ、そろそろ帰ろう。私明日も学校だし」


「そうだな」





私達が二人で車に戻ろうとした時だった。













「麗しの龍がこんなところでデートか?」






バッ!


「誰だッ!」


「幾斗?」



幾斗が勢い良く声の方へ振り返り、私を背に庇った。










「誰とは挨拶だなぁ?俺の事、もう忘れたわけ?」


「お前ッ!」






私達から死角になる墓石の影から現れたのは、一人の男だった。


薄茶の髪に黒いスーツ。顔はサングラスで分からないが、その雰囲気に、体がカタカタと震える。


笑ってはいるが、男から発せられる何か。私は恐怖に目の前の幾斗の服を握り締めた。