お墓から比較的近くにある小さな花屋に、客は一人もいなかった。
私が選んだ花を池島さんがお金を払う。
「ありがとうございました」
店員さんに見送られ、車に戻る。
雨は依然として上がらず、もうすぐ夏だと言うのに肌寒い。
「お待たせ、幾斗。……どうかした?」
車内に残していた琉伊は、腕を組んでジッと窓の外を睨み付けていた。
「いや……。何でもない」
「そう……」
多少気にはなったが、何でもないと言ったら、何でもない。幾斗が口を割る事はないだろうと、深くは追求しなかった。
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「では、俺はあっちの駐車場にいますので、帰る時に電話して下さい」
そう言って池島さんは私たちを下ろして去って行った。
「行こう」
私は一度幾斗を振り返り、お兄ちゃんのお墓に向かう。
「ちょっと寒いね。傷、大丈夫?」
「もう塞がってるからどうもねぇよ」
「そっか」
「……──なぁ」
「何?」
私は後ろを歩く幾斗を振り返らないで返事だけ返した。
「お前は、何で聞かないんだ……」
「…何を?」
そんなの聞かなくても分かってる。
「黎雅さんの事だよ……何で、「何でお兄ちゃんが死んだのか聞かないのか?」
「……」
「お兄ちゃんがどうやって死んだか。貴方が殺したってどういう事なのか。聞きたい事はたくさんあるよ」
「じゃあ何故聞かない」
「私が無理矢理聞き出しても仕方ないでしょう?」
「あ?」
「貴方の中で整理付けて、きちんと受け止めてから、あんたの意志で言わなきゃ…何も…解決しない」

