龍の世界


お墓から比較的近くにある小さな花屋に、客は一人もいなかった。




私が選んだ花を池島さんがお金を払う。






「ありがとうございました」



店員さんに見送られ、車に戻る。

雨は依然として上がらず、もうすぐ夏だと言うのに肌寒い。







「お待たせ、幾斗。……どうかした?」



車内に残していた琉伊は、腕を組んでジッと窓の外を睨み付けていた。








「いや……。何でもない」


「そう……」





多少気にはなったが、何でもないと言ったら、何でもない。幾斗が口を割る事はないだろうと、深くは追求しなかった。









*****



「では、俺はあっちの駐車場にいますので、帰る時に電話して下さい」




そう言って池島さんは私たちを下ろして去って行った。










「行こう」



私は一度幾斗を振り返り、お兄ちゃんのお墓に向かう。






「ちょっと寒いね。傷、大丈夫?」


「もう塞がってるからどうもねぇよ」


「そっか」


「……──なぁ」


「何?」




私は後ろを歩く幾斗を振り返らないで返事だけ返した。








「お前は、何で聞かないんだ……」


「…何を?」



そんなの聞かなくても分かってる。





「黎雅さんの事だよ……何で、「何でお兄ちゃんが死んだのか聞かないのか?」


「……」


「お兄ちゃんがどうやって死んだか。貴方が殺したってどういう事なのか。聞きたい事はたくさんあるよ」


「じゃあ何故聞かない」


「私が無理矢理聞き出しても仕方ないでしょう?」


「あ?」


「貴方の中で整理付けて、きちんと受け止めてから、あんたの意志で言わなきゃ…何も…解決しない」