龍の世界

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その日は生憎の雨だった。曇天の空は重くのしかかって来るような威圧感がある。






正午過ぎ────



雨足は朝よりも酷くなり、地面に叩きつけるような強いものになっていた。









「お帰りなさい」



校門で待っていたのは池島さん。




「どうぞ」


「ありがとうございます」




開けて待っていてくれたドアから、雨を避け、素早く車内に乗り込む。







「遅ぇ……」


「ごめん、ごめん。体調大丈夫?」


「大丈夫じゃなかったら来てねぇよ」


「まぁ、そうなんだけど」



車内に乗っていたのは私服を来た幾斗だった。
今まで病院着しか見たことが無かったので、新鮮さを感じる。





相変わらずの反抗的な言葉に冷たい目をしているが、先週より心無しか顔色も良くなっているようだ。






「雨降っちゃったね。嫌な天気……」



動きだした車の窓を叩きつける雨。







口を開かない幾斗に、私も口を閉ざした。
車内は静かで、雨の音だけが響く。








私は鞄からお兄ちゃんを焼いた灰を入れた小瓶を取り出した。





今の空はこの灰のように暗く重い。
まるで私の不安を見透かしたように。












「花屋、寄りますか?」


「あ、はい。お願いします」




今日はお兄ちゃんが好きだった白い百合を買おうと決めていた。