龍の世界

「あなたは、麻綾に会うのは初めてではなかったですね」



屋敷に入って行った少女の姿を黙って見つめる浅見の目が和らいでいるのに気付いた。

あの冷酷無慈悲で仲間にでさえ容赦ない浅見が……









「えぇ。あの子がまだ小学生の時に一度。私が黎雅に出会ったばかりの頃です」


浅見は何かを思い出すように目を閉じた。









「よく笑う、元気な子でした」


「そうですか」


「私はあの子を守りたいと思ったんです。人を嫌っていたあいつが唯一愛していたあの子を。そして、人間不信だった私を救ってくれたあの子を。だから私は、その為なら手段は選びません」




そう言って彼は胸ポケットからIDを取り出した。




「奴等が裏から手を回していた証拠です。これがあれば決定的になります。奴等はこの会社から多額の保護を受けているので、会社が潰れれば、大きな痛手でしょう。ですが、やはり椿姫は掴めませんでした」






仕事の顔となった浅見は、私にそのIDを渡した。


この小さなIDの中には、長年桜千会に対立していた組のアキレス腱がある。しかし、一番の目的は果たせなかった







「お疲れ様です。まずは目の前を片付けなければなりませんね。焦って逃げられても困りますから、しばらくは動きを見ましょう」


「はい」


「麻綾と幾斗の護衛を増やす必要がありますね」


「では手配しておきます」


「お願いします」

















浅見が屋敷に入るのを見届け、皇也は空を見上げた。



青く澄んだ空は、


とても穏やかで温かい










この空のような穏やかさが



続けばいいと思う──────






嵐の前の静けさにならぬよう、出来るだけの手を打たねばならない。















あの子達が



普通の子供のように



笑って過ごせるように









皇也は静かに目を閉じ、再び目を開けると、屋敷の中に入っていった。