私は未だにお兄ちゃんの死の真相を知らない。
幾斗に聞く勇気もなく、でも他の人の口から聞いても教えてもらえない気がした。
ただ…
何人もの人が…
事故だったと……
幾斗は悪くないのだと…
私に言いに来た────
だから幾斗をこれ以上責めないでほしいと……──
幾斗は少し前まで精神異常者のようだったと若桜さんから聞いている。
今はだいぶ落ち着いて、会話もしてくれるが、以前は言葉を発することもなく、一日中泣いていたりする日があったそうだ。
若桜さんは、私のお陰だと言っていたが、私にはよく分からない。
ただ私は、幾斗を責める気はなかった。
幾斗の目が私を怯えるように見ているのを知っている
私は知っている…
幾斗はときどき、私を見ながら、私とは違う人間を見ている事を。
それが誰かなど言うまでもない。
その時の幾斗の顔が
とても悲しそうで苦しそうで……────
でもいつか知りたい
本当の事を……───
今は、少しずつでいい
幾斗の心の氷を溶かして行きたい
*****
病院から帰ってくると屋敷の前には、数台の車が止まっていた
誰かがこれから仕事なのか、帰って来たのか・・・・
門をくぐってすぐ、若桜さんともう一人、長身の男性が立っていた。
若桜さんは私と池島さんに気付き声をかける
「お帰りなさい、麻綾。池島もご苦労様でした」
「ただいま、若桜さん」
「お疲れ様です。会頭、浅見さん」
私が普通に挨拶を返し、池島さんは若桜さんと、もう一人に頭を下げた。

