「もう…。幾斗には一生分かんないわよ……。あ、ねぇ幾斗っていつ退院できるの?」
「なんだよ急に…俺が知るわけないだろ。最初の方に散々暴れて傷口が開き捲ってたから、治りが遅いらしいしな」
「ハァー、馬鹿ねぇ。わざわざ痛い思いしたいなんて、マゾ?」
そんな私の言葉に幾斗は眉を潜めた。
「殺すぞ」
「はいはい。でさ、来週の水曜日。外出許可降りないかな?」
「は?」
私は少し蓄めて、視線を下に落として、少しだけ笑った
「来週の水曜日さ、お兄ちゃんの四十九日なんだよね。お墓、行こうと思って」
「黎雅さんの・・・」
「うん…早いよね。もう一月以上だもん。本当は四十九日が終わってから納骨するんだけど、私はあのお屋敷にいるし、あそこじゃいつ何があるか分からないからって若桜さんが特別に火葬してから直ぐに納骨してくれたの」
あの日の事は、あまり記憶にない…
「一緒に行こうと思って……」
「……お前馬鹿かよ。殺した本人に会いたいヤツがどこにいるんだよ」
「はいはい。でも大丈夫よ。お兄ちゃんは幾斗に会いたがってる」
「はッ、意味分かんねぇ」
幾斗は馬鹿にしたように鼻で笑うが、その表情はとても苦しそうだ。
私はこの表情が見たくなくて、幾斗との会話にお兄ちゃんの話を入れた事は、初対面から一度もない。
「水曜日、準備しといてね」
まだ外出許可が降りるか分からないのに、その約束を取り付けて、病室を出た。
廊下にいる人達に挨拶をして病院を出る。
もう外は夕日でオレンジの空が広がり、西日が少し暑い。
私は玄関の隅に停まる、黒いベンツへ向かう。
私に気付いて降りてきたのは池島さんだ。
「お帰りなさい」
「ただいま、池島さん」
池島さんの運転で屋敷に戻る道中、私はずっと幾斗の事を考えていた

