藤堂は湯川の言葉に鼻で笑いながら同意した。
「ハッ…まあな…」
「あの人は本当に大切にしていた…──麻綾の事を…」
湯川の切れ長な黒曜石のような瞳は空を映していた。
桜千会の枢とも言えた存在だったあの人
あの人がいるだけで
どんな時でも安心出来た
「守ってやらないとな」
湯川の言葉に無言で肯定する。
あの人の唯一の宝は
今ここにいる。
*****
「麻綾ー、駅前に美味しいケーキのお店見付けたんだけど、皆で行かない?せっかく今日の練習早く終わったんだし」
そう声を掛けて来たのは、同じ新体操のクラブチームに所属する同い年の少女。
「ごめん、今日は迎え呼んじゃったからまた今度ね」
「えー、最近付き合い悪くない?次は絶対だからね?」
「予定が合ったらね」
私はそれだけ行ってスポーツクラブから出た
普段は9:00まである練習が、コーチの用で今日は6:00まで。
この時間からケーキもどうかと思うが、私は次からも行くつもりはなかった。
何故なら・・・・
「お帰りなさい、麻綾さん」
「池島さん、お待たせしました」
私には必ず迎えが待っている。
「そのまま屋敷に向かってもよろしいですか?」
「あ、幾斗の病院に行って下さい」
「分かりました」
池島さんは基本的に必ず迎えに来る。
流石の私にもヤクザの目を掻い潜って遊びに行く勇気はない。
さて、私と幾斗だが、私が入院中の幾斗と会って、まだ2週間も経っていない。
いつの間にか名前は呼び捨てになり、今まで遠慮していた態度も現在は皆無となっている。
2週間も経たないこの毎日、私と幾斗の戦いは凄まじかった。

