龍の世界

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麻綾と病院から帰り、藤堂は執務室へ向かうために廊下を歩いていると、湯川と鉢合わせた。


「晶人…もう帰ってきたのか…」


「ああ…なんてったって面会時間1分だからな…」


「は?」





湯川にあったことを話すと、やはり麻綾が幾斗の名を知っていた事に驚いていた。



「黎雅から聞いたらしい…」


「幾斗はどうしてる?」


「驚いてたよ…それに、麻綾に真実言い当てられてまたうじうじ悩んでるんじゃねーの?」


「そうか…麻綾がそんな事言い出すなんて、あいつにとっては予想外だったろうな…あいつは麻綾を遠ざけたかったんだから…」

「心配か?」

「…さぁな」


言わないが、本当に心配なんだろう。湯川は幾斗が本当に幼い頃から面倒を見てきたのだから…



保護者であっても忙しかった皇也に変わって実際に面倒を見たのは湯川だった。












「それで?今日はどうだったんだ?」






急に話題を変えた湯川。怪しかったが何も言わずに藤堂は口を開いた。



「ざっと20人前後」


「やっぱ日に日に増えてるか…」




湯川は忌々しそうにため息を吐く。

その様子を横目に見ながら俺は内ポケットからメモを出して総司の目の前に差し出した。



「幹部も何人かいた」




そのメモには部下が書いた複数の単語。全て個人を示す暗号だ。


幹部連中を本名じゃなくて暗号のようにして示すのは、このメモが他にバレても分からないようにだ。




「なかなか面倒なのもいやがる。幾斗にも手出し出来ず、麻綾の近くにも護衛がいるし、向こうもやきもきして来る頃だろう」



「浅見さんからの報告じゃあ、華龍の話はもうだいぶ広まってるらしいしな」



「あぁ…らしいな」



「ともかく、麻綾からは絶対離れるなと、若頭からの命令だ」



「そりゃ世話係のお前の役目だろ、藤堂」



「んな事言ったって、お前だって放っておけないだろ?」



「そりゃあ、あいつの忘れ形見ときたらなぁ…」