龍の世界

藤堂さんに続いて部屋に入ると、幾斗と呼ばれた彼は目を見開いて私を見た。




「何しに…来た」


「ッ……」



冷たい視線に体が強ばるが、ここで止まってはダメだ。



「皇也さんに言われて来たか・・・」


「……違う」


「あ?」


「違うわよ」


「じゃあ何しに来た」



“怖い”
視線が怖い
空気が怖い


けど……





「私は…まだちゃんと話してないから」


「あ?」


「お兄ちゃんの事・・・」

「話しただろうが。その事は」


「聞いてない」


「は?」


「私は、お兄ちゃんから貴方の事聞いてた。貴方、九条幾斗君でしょう?」


「ッ!」



私が名前を口にすると、幾斗君は心底驚いた様子でこちらを見た。

藤堂さんも空気で、幾斗君と同じ反応をしていると予想した。





「お兄ちゃんは、貴方のことをよく私に話してた。すごく仲が良かったんでしょう…?」



「何をッ……」



明らかに、幾斗くんは動揺した。




「私は…まだ本当の事は知らない」





そうはっきりと、私は彼の目を見て言った。




「もし貴方が悪意でお兄ちゃんを殺していたら、ここにいることに罪悪感なんて感じないわ。貴方は自分はここにいるべき人間じゃないと言った。それは、お兄ちゃんに対して罪悪感があるからじゃないの?」




呆然とした幾斗くんに、目を伏せた私は、藤堂さんのスーツの袖を引き、静かに病室を後にした。