「あの、池島さん。四天王って、何なんですか?」
「あれ?麻綾さん知らないんですか?」
「はい。時々聞くんですけど…」
「そうですね…。簡単に言うと四天王って言うのは、幹部の中の代表で、会頭の直属の部下の方々です。
4人中3人は自分の組もお持ちですが、麗龍だけが例外で組は持っていらっしゃいません。あの方はまだ未成年ですし、何より黎雅さんが彼を完全にこちらの世界に引き込むのに反対なさったんです。後戻りが出来ない場所に行くのは本人の意志にまかせる…と。
会頭もそれに賛成したので麗龍は組を持たず、仕事も最小限ですが、その力量は四天王の中でも突出しています」
「麗龍さんって凄い方なんですよね……」
私とあまり年は変わらないように見えたけど…
「えぇ。俺も麗龍の戦う姿は一度だけ見たことありますが、まるで舞いのようでした。
動きに無駄がなく、まるで踊るように敵を倒す。それが麗しの龍と呼ばれる由縁です。初めは、麗龍みたいな若い人間が四天王になるのに反発が大きかったんですが、あんな姿見せられちゃ、誰も文句は言えませんよ」
「……お兄ちゃんは華龍(かりゅう)って、呼ばれてたんですよね?」
「それはご存知なんですね。はい。黎雅さん…、華龍は、この裏社会で知らない奴はいません」
「そうなんですか…」
私の知らないこの世界で
お兄ちゃんは
全く知らない人────
そう思ったら何故か目頭が熱くなって………
「フフ……──何で涙って枯れないんでしょうね……」
目の前が歪み、頬が濡れる感触がした。
「麻綾さん……」
「すみません…、何でも、ないですから……」
私はそう言って顔を伏せるので精一杯だった。

