龍の世界


静寂の中、ゆらりと影が揺れた。





「葉紅(はく)様…お呼びでしょうか」


闇に紛れても怪しげな光を宿す漆黒の瞳。

現れた大きな望月により、彼の面差しが現れる


卑しく細められた瞳と、楽しげに歪む薄い唇。






「うん、もうあんまり待てそうにないんだよ……早く連れてきて、僕の龍を。君なら出来るよね……」


「御意。私はアレ等だけ頂ければ後は何も求めません」


「うん、いいよ。君が欲しいものは僕には必要ない…。好きにしなよ」





男はふわりと微かな残り香を残し、部屋から出て行った。







「あいつに狙われるなんて可哀想…」









葉紅は再び月を見上げた。








その口元は愉しげに歪んでいた。