七狐幻想奇譚

「……暑い」


 扇風機が羽根を回す、無機質な音だけが部屋に響いている。長く使ってるせいか、最近はその回転音も重症だ。

 効きも悪く、寝つけないのは心の衛生上によろしくない。そういった理由も一理あるが、一番の原因は夏特有のじとっした暑さだった。
 

 何度目かの寝返りを打った後、とうとう眠るのは諦める。

 少女はベッドから抜け出し、窓を開ける。


 窓の外には、明かりの消えた民家と、田園風景が淡々と広がっているだけで、何もない。
 開けたところで涼しくなるはずもなく、ただ生ぬるい夜風が、頬を撫でていった。


「明日からお祭りかあ」


 狐火(きつねび)の町が、一年で唯一、賑やかになる日。七日間に渡る伝統の夏祭りは、静かなこの町に熱を灯す。


 そんなに多くはないが、定番の焼きそばや、たこ焼き。それから、りんごあめなどの出店が並ぶ。その中で特に花ヨーヨー釣りは女性に人気で、好きな花が釣れたときの喜びはひとしおだ。


 この日のためだけに、世間では名も知られてないような唄人が民謡を披露する。幻想的で、どこか懐かしい。これを聴くためだけに遠方から訪れる熱心なファンもいるとか。


 別に特別な唄ではないのに。でも、ある人はこう言った。


 目まぐるしく過ぎてゆく日々の中で、いつしか忘れてしまった、そんな唄なのだと。


 幻想的な灯火が揺れる舞台。扇も鈴も持たずに巫女は、誘いの舞をまう。



 亡くなった祖母から聞いた話では、この町の守り神として崇められている狐がいて、その狐を喚ぶための祭りらしい。


 小さなため息を零す。

 正直馬鹿馬鹿しかった。


 どうして大人は伝統行事を大事にしたり、いるわけないものを信じたり、敬うのだろう。