「帰って下さい!」


「えぇ?」


「帰れって言ってんだよ!クソババァ!帰れー!」


「んまぁー!なんて口の効き方かしら?やっぱりあの母親にしてこの子あり、ね。恐ろしい!ピノコちゃんもこうなっちゃったらどうしましょう!」


「いいから帰って下さい!」


グダグダ言う緒方さんを力ずくで玄関まで押し出し、ドアを締め、鍵をかけた。


ドンドントン…。


「開けなさい!」


締め出しをくらった緒方さんは、必死にドアを殴る。


アタシはドアに寄りかかり叫んだ。


「ピノコちゃんを頂戴って、ピノコは物じゃない!うちは貧乏だし、満足な生活をさせてやれないかもしれないけど、ピノコを物みたいに扱ったりはしない。二度と来るなー!」


ピタリとドアを殴る音が止んだ。


「また来ます…。」


力なく呟くと緒方さんは帰っていった。


階段を降りる足音が、力なく、弱々しくて悲しかった。


こっそり覗いた緒方さんの後ろ姿は寂しそうで、立派な帯に逆に背負われているみたいに小さい。

アタシは泣きながら緒方さんの草履の足跡を雑巾で吹いた。


ピノコが背中を丸めながら座って、CMに出てくる着ぐるみを目で追っている。


緒方さんの小さな後ろ姿と重なって、余計に切なくなった。