「利香姉、行かないで…。」


「えっ?」


「遠くに行かないで!」


大貴は堰を切ったようにワンワン泣いた。


「大貴…。」


それは大貴が初めてアタシに言ったワガママで、切実なお願いでもあった。

同じ年頃の子供よりも大人びて、アタシをいつも助けてくれる大貴が小さな子供みたいに泣いている。


ううん…。
大貴はまだ小さいんだ。

本当はまだまだ甘えたい年頃なのに、こんな状態だから我慢していただけ。


毎日、どんなに気を張って生きてきたんだろう?

大貴にとって、アタシは唯一甘えられる存在なのにそのアタシが家を出るかもしれないと知って、不安と寂しさに襲われたんだね…。


「大丈夫だよ?アタシはどこにも行かないよ?」


アタシにしっかりとしがみつくピノコと、泣きじゃくる大貴をいっぺんに抱きしめる。


当たり前だけど、2人ともなんて小さくて頼りないんだろう…。


行けないよ…。
アタシはこの子らを置いて行けない…。