彼の手がキライ




「今の状態がいいって分かってるんだ。分かってるんだけどさ、優しい嘘も悪くないって分かってるんだけどさ、たまに壊したくなるんだよな。優しい嘘を」



“このチロル見て莱が矢沢を思い出してくれねぇかな、っていつも期待しながら買ってるんだけど……”


「まあ、簡単に壊れねぇんだけどな」


“記憶って簡単には戻らねぇんだな”


全てがピタリとハマった気がした。


タツは多分まだ莱ちゃんが好きなんだ。


彼女がいるって言ってたけど、彼女がいるならこんなにわたしと一緒にいる時間が長いなんておかしい。


実際、彼女はいないんじゃないのかな。


友達の彼女が好きで、その彼女は今はまた別の友達の彼女。


考えただけで苦しくなる。


タツはどんな気持ちで記憶をなくした莱ちゃんと彼氏を見てきたんだろ。