彼の手がキライ




真っ白な頭で無理矢理色々なことを考えてみたけど余計にパニックになった。


ハッと分かったことはもうバイトは遅刻だということ。


急に力が抜けて諦めが生じたと同時に少し落ち着いた。


やっぱりなんでタツに抱き締められてるかは分からないままだけど。


ただ、“抱き締められるのってこんなに気持ちいいんだな”とボーッと考えていた。


タツが“昔さ…”と呟いた。


抱き締められてるから顔は見えないけどタツの声を拾えるように神経を集中させる。


「矢沢に、タツは俺が持ってないものたくさん持っていて羨ましい、って言われたことがあるんだけどさ」


ちょっとだけわたしを抱き締める力が強くなる。


「俺が本当に欲しいものは矢沢に持っていかれちゃったんだよな」


ははっ、っと乾いた笑い声が頭上で響く。