「なんで呼んでくれないんだよ?」
微妙に、稚尋の腕に力が入ったのが分かった。
それはいいとして。
「桜君……ここ、学校なんだけど……」
「それがどうした?」
本当に、この人は何も感じないのだろうか?
チラチラと通り過ぎていく人達が、澪たちを横目で見ていく。
昨日、私はフラれたばかりなのに今日には別の男と一緒にいる。
そんな女の印象がいいわけがない。
澪は途端に言いようのない恥ずかしさに襲われ、稚尋を引きはがそうとする。
「っ……! 放してよ!」
「冷てぇな」
稚尋はあっさりと澪を解放した。
なんだか拍子抜けしてしまった。
てっきり抵抗されると思っていた澪は、行き場を失った自分の両腕を見つめる。。
「わけわかんない……」
次第にペースを乱されていく。
それがなんだか悔しかった。
何がしたいの?
そう言いたくて、言えなくなる。
稚尋は澪を見下すように、腕を組んでいた。
なんだか、ものすごい威圧感。
きっと彼にとっては普通の行動なのだろう。
しかし周りからしてみれば、機嫌が悪そうに見える。
そろそろ周りの視線が辛くなってきた。
ついに耐え切れなくなった澪は、稚尋に少し怒った口調で言った。
「もう! 私、行くからね。つきまとわないでよ」
本当、私の気持ちなんてなんにも知らないんだから。
澪は教室へ向かうため、歩き出した。
その時だった。
「わっ……!?」
「ぅわっ!」
澪は誰かとぶつかり、尻餅をついて荷物をばらまいてしまう。
本当に私は運がない。
少し涙ぐみながら、澪は立ち上がった。
「ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか?」
「……いや、大丈夫」
ふとその人の顔を見上げ、澪は凍り付いた。
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