保健室の隅で怯える稚尋に、味方がまた立ち上がる勇気をくれた。



『頑張りな』



 冬歌が、笑顔で稚尋に言った。




『もういい加減、忘れなさいよ……』




 雛子を忘れろって?



『まだ……二年だから、な』



 俺は雛子を傷つけたんだぞ?


 だから、澪と被せても、雛子を愛したかったんだ。



 傷を癒さなきゃ。
 そう思っていた。


『やっぱり……あんた達は本命同士だね』



 …………忘れたいさ。


 出来るなら、雛子を忘れたい。





 過去に捕われたくなんかないのに。


 どうしても、頭の隅に焼き付いて離れないんだ。





『朝宮、好きなんでしょ?』



 あぁ、そうか。


 今俺が好きなのは、澪なんだ。




 久崎 雛子じゃない。




 朝宮 澪なんだ──……。



『えりちゃんも、本格的に動き出したみたいだから』



 だから立ち上がらなくちゃ。



 俺が立ち上がらなくちゃ、大切な人をまた失う。


 それは絶対に嫌だ。



 自分の過ちに、かたをつけにいこう。


 澪を抱きしめるのは、それからだ。




『ありがとな、冬歌』



 お前が、俺の姉でよかった。




 父親に引き取られたのは、正解だったのかもしれない。



 俺は立ち上がる。




 明日のために。






★極苦な過去“稚尋”


【END】