「今日も女子の視線が痛いよ……」



 澪は教室の中、ため息をつく。



「いーでしょ。ただの逆恨みだろうし」



 のんきにそう言いながら、暎梨奈は烏龍茶を飲んでいる。



「そうは言うけどさ!」



 実質、厳しい。



 暎梨奈は相変わらずマイペースに笑っている。



「だって、痛いのは視線だけじゃん? 澪に手ぇ出したら稚尋に嫌われるーとか思って誰も何もしてこないし」


 暎梨奈の言うとおりだ。


 最近は女子の視線どころか、男子の視線も痛い。


 でも、暎梨奈がいてくれるからなんとかやっていけている。





「ありがとね、えり」



 そう言って、澪は暎梨奈に優しく微笑んだ。





「何、改まっちゃって」


 暎梨奈は烏龍茶を飲みながら、下を向いてしまった。



 その頬が、ほんのり赤い。







 毎日友達が側にいてくれる。



 それはどれほど幸せなことだろう。




 澪が暎梨奈を見つめていると、逆に質問が返ってきた。





「で? 稚尋とはどうなった? ちゅーした?? ちゅーした???」



「ばっ、声がでかい!!」


 澪は慌てて暎梨奈の口を押さえる。



「誰かに聞かれたらどうすんのよっ!」





 そんな事実、受け入れたくなんかないのに。




 澪が慌てふためいていた、その時。




 澪の肩に、見覚えのある感覚が伝わる。




「あ……澪、愛しの王子様ご登場?」




 暎梨奈はニヤリと笑う。


 王子様。王子様って……。




 恐る恐る澪は顔をあげる。




「聞かれたら、まずいのか?」




 澪のすぐ後ろから、稚尋の声がした。