情事後、稚尋は無表情のまま、相手の女に言葉を投げ掛ける。
「バイバイ」
そんな稚尋の顔を、信じられないと言うような顔で女は見た。
そして一変、甘えた声で稚尋に擦り寄ってきた。
「ねぇ……本当にもう会ってくれないの?」
めんどくさい女だ。
呆れてため息をが出る。
こんな状況も、一体何度経験しただろう。
「あのさぁ? 俺、そういう女って無理なんだよね」
稚尋の言葉に、女は怒りながら部屋を出ていった。
後に残るのは、なんとも言えない倦怠感。
それだけだった。
稚尋は一人になった用具室で、大きなため息をつく。
無音の室内からは遠くから部活動の音がする。
自分は、一体何をしているのだろうか。
そんなことを考えながら、稚尋は夕方の保健室の扉を開いた。
案の定、誰もいない。
稚尋はため息をつき、そのまま眠りについた。
どのくらい眠っていたのだろう。
気がつくと、人の気配がした。
「っ……ひっ」
生徒が部活で汗を流す放課後。
「……っ」
………………?
先ほどから、誰かの泣き声が聞こえる。
稚尋はカーテンの隙間から、そっとその人物をのぞき見た。
そこにいた人物に、稚尋は目を丸くして驚いた。
そこにはなにか悲しいことがあったのか、ひたすらに涙を流し続ける女の子がいた。
稚尋には、その女の子に見覚えがあった。
それは、男子の間で噂だった泣き虫な美少女。
朝宮 澪。
直接見たことはなかったが、噂だけは知っていた。
噂の彼女がすぐ隣のベッドで涙を流している。
この場所からでは横顔しか見えないが、濡れた長い睫毛がしっかりと見える。
確かに、噂は本当のようだ。
噂では、彼女は告白しても誰にもOKしてもらえないらしい。
その真相は知っていた。
男子たちは皆、“皆の澪ちゃん”などという馬鹿げた協定をつくり、澪を女神のように崇めていた。
女神のように崇めている彼女が、傷つき、泣いているとも知らずに。
小林 大輔も、その一人だった。



