「はい、ハンカチ」
次の日、澪はようやく見つけた稚尋にハンカチを渡した。
うまく目線を合わせることが出来なかった。
「お……そーいや、貸したっけ?」
なによ、そんなことも忘れてたの?
「貸したでしょ……」
「忘れてた」
稚尋にとっては、そんなことだったんでしょ? どうせ。
次の瞬間、稚尋は口角を上げて笑った。
とても不気味なほど美しく。
「……なんてな? 忘れる訳ねーじゃん。お前も、ちょっとは俺のこと……意識してくれた?」
そう言いながら、稚尋は人目につきにくい柱の隅に澪を押し付け、近づいてきた。
心臓が、うるさい……。
この状況はどうしたらいいだろう。
もう既に、稚尋の息が澪の首筋にかかっている。
近いよ……稚尋。
動揺する澪を見て、稚尋は笑った。
「姫……顔、赤いよ?」
「なッ!?」
自分でも、頬が赤くなるのがわかる。
……恥ずかしい……。
「姫……」
不意に、稚尋の唇が顔を過ぎて首筋におりてきた。
ゾクリと、体に走る衝動。
稚尋は、澪の首筋に自分の唇を押し付けたのだ。
その行動に、思わず体がビクリと震える。
「……可愛いよ、姫……」
稚尋の言葉が、澪に突き刺さる。
顔が、赤くなる。
でも、わかったんだ。
わかってしまった。
私も所詮は同じ存在だったってことに。
「……なんでしょ?……っ」
この行為は、稚尋が他の女の子にすることと、なんら変わりはない。
「……え?」
「私も、稚尋にとって……他の女の子と変わらないんでしょ……?」
涙が頬を伝った。