「ドンマイ!」
そう言いながらへらへらと笑う暎梨奈。
笑ってる場合じゃないよ……。
体育祭は嫌いだ。
「あ、稚尋!」
「は!?」
暎梨奈が突然、稚尋を呼んだ。
澪は慌てて前髪を直す。
「おー、次借り物?」
澪は変な緊張感にかられながら、視線を外して俯いた。
そんな澪を見て、暎梨奈は何を思ったか、稚尋を澪に近づけた。
ドキリと胸が高鳴る。
「稚尋、速かったね! 澪がカッコイイって言ってたよ!!」
「ちょっ! えりっ!!」
嘘言わないでよ!
澪は自分の耳が赤く染まっていくのがわかった。
そっと、伺うように顔をあげてみる。
するとそこには……。
「マジで? 正直になったじゃん、姫」
すごく嬉しそうに、意地悪そうに笑う稚尋の顔があった。
「ち……言ってないよっ!」
「えー、言ってたよー?」
「言ってない!」
稚尋が澪の腕を掴んだ。
その行動に、澪は過敏に反応してしまう。
「姫、次の借り物競争。分かってるよな?」
稚尋に耳元で囁かれ、澪の背中に痺れが走った。
あの日の約束。
“ビリ以外だったら、ご褒美あげる”
「無理!」
ご褒美って何考えてんのよ……馬鹿。
「無理って……絶対やめねぇよ? 何言われても」
「はぁ?」
ここでそんな事言わないでよ。
《借り物競争に出場する選手の皆さんは、入場門に集まって下さい。繰り返します……》
稚尋の手を振りほどこうとした瞬間、一番嫌な放送が入った。
澪は思わずため息をつく。
そんな澪を見て、稚尋がニヤリと笑った。
「あ、放送だ。行こうよ!澪」
暎梨奈が澪の手を引いた。
「あ、うん」
でも、仕方ない。
意を決して、澪は立ち上がり、歩き出した。
「姫、頑張れ」
稚尋の声が聞こえる。
稚尋も出るんでしょーが。
「知らないよっ!」
そう言い残すと、澪は暎梨奈と共に入場口へと走った。
★ちょっと待ってよ
【END】