「分からんのか、幸」 父は嘆かわしいとでも言いたげな表情を浮かべた。 父の言っていることが、丸きり分からない訳ではない。 だけどあたしにはそんな未来より、目の前にある今が重要なんだ。 友達とか、恋とか、オシャレとか。 そういうものに力を注ぐことで精一杯なんだ。 何年か先の安泰よりも、今日一日をどう過ごすかの方があたし達にとっては大切なんだ。 悔しい思いは溢れるのに、それを伝えるボキャブラリがなくて。 あたしは一度バン!と階段を強く踏み付けて、自室へと駆け込んだ。