「聞いてるのか、幸!」


怒鳴る父をあたしは軽く睨む。体格が良くて色黒な父は正面から見ると少し恐いけど、あたしは目を逸らさなかった。


「うるさいな。あたしの勝手だよ。迷惑かけてる訳じゃないんだし放っといてよ」


苛立つあまり早口になる。父の眉間にはさらに深いシワが寄る。


「女がこんな時間まで出歩くもんじゃない。わきまえなさい」


さっきまでの怒鳴り声とは一変して諭すように父が言う。
女だから、男だからって、外を歩くのにそんなの関係ないじゃん。

あたしはその時、父の言っている意味が分かっていなかった。