「しゃーねえ。またカモを(さが)すか」
懸賞金(けんしょうきん)のリストはウェブ上で公開されてる。ICPOが運営(うんえい)する専門(せんもん)のサイトがあるのだ。
犯罪者(はんざいしゃ)の名前、経歴(けいれき)、犯罪の内容、潜伏(せんぷく)していそうな地域(ちいき)、もちろん懸賞金の(がく)まで。簡単(かんたん)な情報ならここで手に入る。
だがそれだけじゃダメだ。(だれ)でも見られるような情報だけでカモを(つか)まえられるほど、BHは甘くない。同業者(どうぎょうしゃ)に先を()されちまう。
(ゆえ)にほとんどのBHは、自分だけのコネや情報源を持っている。俺にももちろんあるし、ディルクにもある。それになんと言ってもこっちには、腕利(うでき)きのコスプレハッカーがいる。
「おい、あかり――」
「ジルー。あたしスペイン行きたい」
『良いカモはいないか?』と聞こうとした矢先、人のセリフにかぶせてきやがった。
「何だよ唐突(とうとつ)に」
「ちょーパエリア食べたいんですけど」
口の中にピザを2ピース()()んだ状態(じょうたい)でのたまいやがった。
「お前の思いつきはいつも唐突すぎる」
「パエリアパエリアパエリアー! てか最近米食べてないから米ロスエグい! 日本人なのに米食べらんないってどんだけー?!」
わけのわからんテンションで(さわ)ぎ始めた。(たし)かに俺も米好きで、好物(こうぶつ)納豆(なっとう)ライスだが。
「ヨーロッパならこっから近いぢゃーん。この船なら2日くらいで地中海(ちちゅうかい)まで行けんぢゃね? てか行ってガチで」
めちゃくちゃ言いやがる。まあ確かに、バラクーダなら行けるだろうが……
「その前にだ。カモを見つけろよ。それがお前の仕事だろ」
「カモならもぉ見つけたし」
さらにピザをほおばりながら答える。
「なんだよ。どこにいんだ? そいつ」
「スペイン」
「先に言え!」
最後(さいご)のピザをダイエットコーラで(なが)し込み、俺はコクピットへ向かう。
「んじゃま。そういうワケで行きますか。スペイン」
「パエリアー☆ ついでにアイスもね♪」
そんな俺らを横目(よこめ)に、ディルクは淡々(たんたん)と皿を片づけ始める。
船は一路(いちろ)、地中海を目指し、北上(ほくじょう)を始めた。