「よし、あかり。ここらに今の時間からやってる地下酒場はないか?」
人使(ひとづか)いが(あら)いなぁ」
ぶつぶつ言いながらも、タブレットを(あやつ)る。
「あったよ。てか一軒(いっけん)だけ。ここから歩いても10分くらい。ちょうど20分前からオープンしてる」
「よし。行ってみっか」
「ああ」
「トゥース!」
「だから、お前は留守番だ」
「ええー?!」
また遺憾(いかん)の意を表明(ひょうめい)してきやがった。
「ガキ連れて、飲み屋なんかに行けるか。しかもそんな目立つカッコで」
頭のてっぺんから足のつま先まで、ずいっと指差(ゆびさ)し言ってやった。
「こんなの日本ぢゃちょーフツー!」
口をとがらせ、文句をたれる。
「ここは日本じゃねえ。それにホントに日本でも普通かどうか、(あや)しいもんだ。いいからお前はバラクーダに(もど)ってろ」
またしてもぎゃーぎゃーわめくサムライメイドを尻目(しりめ)に、俺達はカフェを後にした。
 
あかりが()()めた、地下酒場への階段(かいだん)前。俺達二人は、階段入口のすぐ横にバイクを止めた。
いかにも胡散臭(うさんくさ)連中(れんちゅう)が出入りしてそうな雰囲気(ふんいき)ではある。
もちろん絶対(ぜったい)ではないが、この中にマルケスがいる可能性が高い。
ちなみにマルケスの懸賞金(けんしょうきん)は1000万。久しぶりに美味(うま)いメシが食えそうだ。ついでにどっかのリゾートで、数日バカンスしても良いかもしれない。
二手(ふたて)に別れよう。念のため(ぼく)は店の外を張る。中は(たの)むぞ」
「オッケー。んじゃ、こっからはインカム使うぞ」
了解(りょうかい)
ディルクにインカムの一つを(わた)す。耳に()っ込んで使うタイプだ。目立たないし、身体の動きも制限(せいげん)されない。発信(はっしん)のときは、(ゆび)に付けたボタンを()せば会話ができる。
「ほんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「気をつけろ」
相棒の声を背中(せなか)に、俺は地下への階段を下りる。
階段を下り切って、左手に店への入口があった。ボロボロのドアで、看板(かんばん)(いた)んでいて店名(てんめい)すらも読めない。その看板自体(じたい)(なな)めに(かたむ)いて(かべ)から取れかかっていた。