お兄ちゃんの伏せた目が


私の胸元に 注がれて


アゴの下で動くお兄ちゃんの手が くすぐったい



私は お兄ちゃんの顔を見つめた



………あんまり変わってないと
思っていたけれど



こうやって
間近で見ると やっぱり大人の男だな




「……よし、出来た」


お兄ちゃんが 少し満足そうな笑顔を浮かべて言った



「蕾、ネクタイの締め方、知らないのか?」



私は少し間をおいて うなずいた



柔らかくお兄ちゃんは微笑んで



「じゃ、夜に教えるよ」



キッチンの冷蔵庫に向かいながら



「蕾は苺ジャムがいい?」



そう訊いたお兄ちゃんに



「教えないで」と言った



きょとんと
お兄ちゃんが私を振り返り



不思議そうな顔をしたから



「ネクタイ」


私は笑って


「毎日、お兄ちゃんが締めてくれればいいでしょう?」



人に甘えるのは苦手な私が


なんで こんなことを言ったのかな



「いいよ
毎日、してあげる」


昔と同じ
お兄ちゃんは優しくうなずいた



お兄ちゃん


この人が 私の全てだ


それは 少し呪縛にも似てる


私を締め付けて離さない


その笑顔