あたしはお兄ちゃんが、新しいお父さんになるなんて思ってもいなかったし。
それに、その頃はまだ離婚の理由も知らなくて、純粋に元父親を愛していたから。
不覚にも。
あたしは、元父親を思って、お兄ちゃんの前で泣いてしまったんだ。
離婚の理由を知ったあたしにとって、元父親は最低以外の何者でもない。
妻と子供を捨てて、家を出て行ったのだから。
そんな男を思って泣いてしまった自分に、気持ち悪さを感じた。
“奈緒とさくらにとって、お父さんは浩ちゃんだけだから”
“……やめてよ。元父親の記憶なんて全然ないから。その人と再婚しなよ”
だけど。
お母さんは、あたしが気を遣っているって勘違いしちゃって。
なかなか行動を起こそうとしなかったんだ。


