“本当は、ずっと好きな人がいるの――……”
元父親が、まだ“父親”だった頃から、お母さんには好きな人がいた。
でもそれは、既婚者であるお母さんと、当時学生の彼にとって、とてもプラトニックな恋愛。
あたしとさくらのことを思って、お母さんも彼も必死にその思いを抑えていたらしい。
そして、元父親が他の女を選んだのを機に離婚。
それから、事はうまく進むはずだったのに。
……進まなかった原因は、このあたし。
その彼のことを、あたしはなんとなく、覚えていた。
元父親が、まだあたしたちの父親だった頃に、一度家に来たことのある優しいお兄ちゃん。
お母さんたちが離婚したあと、そのお兄ちゃんと一緒に遊園地に行ったことがあった。


