「……ねぇ、そんなに嬉しい? “お父さん”って呼ばれるの」
“お父さん”と呼ばれ、喜びに浸る彼に、あたしは少し冷めた口調で訊いてみる。
「そりゃあもちろん」
「じゃあさ、お母さんに“好き”って言われるのと、あたしに“お父さん”って呼ばれるの、どっちに幸せを感じる?」
「……え……っ……」
イジワルな、究極の選択。
どっちかを選ぶことなんてできないって分かりきっているのに。
あたしはつい、そんなイジワルをしてみたくなる。
でも……
「どっちも選べないよ。同じくらい幸せなんだから」
いつも、お父さんのほうが一枚上手。


