「――奈緒っ」
お父さんが事務所にやってきたのは、連絡してから30分後。
薄手の黒いジャケットの下からはコックコートが見える。
お父さんとぎくしゃくしたままの状態が続いていたあたしは、お父さんの顔が見れず、咄嗟にうつむく。
「……どういうことですか?」
低い声で、説明を求めるお父さん。
私服警備員のオバチャンが半ば呆れたような口調で説明し始める。
「娘さんがこのペンをバッグに入るところを見たって言う通報があったんです。で、バッグの中を見たら、これが」
「……あ。“にこにこプー”」
お父さん。
ペンが“にこにこプー”であろうとなんであろうと、この際どうでもいいことじゃないの。


