先輩の体にあった“アレ”は、あたしがつけたものじゃない。
森谷のキスを受け入れようとしたあたしが、先輩を責める立場でないことも分かっているけれど……。
だけど――……
ただの噂にすぎない、先輩がそんなことをするはずがないって信じていただけに。
周囲の予想どおりに終わった恋は、あまりにもショックだ。
「……斉藤?」
全身の力が抜けてしまって、あたしはその場にへなへなと座り込む。
「……あんたも行ったら? 授業、始まってるよ」
はらはらと涙を零しながらも、あたしは目の前の天敵を心配する。
何度拭っても、涙は留まることを知らなくて。
でも、森谷の手前、思う存分泣くのは癪だ、と、心のどこかで強がっている自分がいる。


