――あたしは、学校で嫌なことがあっても、家族にそれを悟られないようにするのがうまい。
でもそれは、お母さんが再婚するまでの話だ。
「……奈緒? 学校で何かあったのか?」
夕食を終えて、家族団らんの場でもあるリビング。
普段と同じようにテレビをぼんやり眺めていたあたしは、何の前触れもなく、お父さんに自分の部屋へと連れて行かれた。
ベッドに腰を下ろしたお父さんは前かがみの姿勢で、絡ませた自分の手を鼻の下に添え、上目遣いであたしをじっと見ている。
……だからさ。
こういう仕草がダメなんだよ、あたし。
「……別に、何もないよ」
半ばふてくされたように言うけれど、お父さんはあたしの言葉を信じない。


