「か……彼女、いるくせに」
“やめて”という言葉よりも、あたしの口からはそんな言葉がこぼれてきた。
森谷はあたしの手に自分の大きな手を絡ませ、真っ直ぐに見据えて言う。
「いないよ。斉藤の気を引きたくてついた嘘だから」
「…………」
ドクドク、という重い音は。
しだいに、ドキドキという音に変わり、あたしの胸をキュッと締め付ける。
「あたしは……」
あたしは、先輩と付き合っている。
あたしは、先輩が好き。
事実をありのままに伝えようと口を開いたとき。
教室の前のほうで、ガタンと嫌な音が聞こえた。
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