†Orion†〜Nao's Story〜



「か……彼女、いるくせに」



“やめて”という言葉よりも、あたしの口からはそんな言葉がこぼれてきた。



森谷はあたしの手に自分の大きな手を絡ませ、真っ直ぐに見据えて言う。



「いないよ。斉藤の気を引きたくてついた嘘だから」


「…………」



ドクドク、という重い音は。

しだいに、ドキドキという音に変わり、あたしの胸をキュッと締め付ける。



「あたしは……」



あたしは、先輩と付き合っている。

あたしは、先輩が好き。


事実をありのままに伝えようと口を開いたとき。

教室の前のほうで、ガタンと嫌な音が聞こえた。