心配そうにしている森谷が、あたしの体を跨ぐようにして上に乗っかってきて。
間近であたしをじっと見据えるもんだから、心臓がバクバクと落ち着かない音を立て始める。
たとえば。
自由の利くこの両手で。
森谷を力いっぱい押しのけたら、あたしはこの状況からきっと脱出できる。
それなのに――……
森谷に阻まれているわけでもないのに、自由なあたしの両手はピクリとも動かない。
森谷の体勢だって、あたしを逃がさないようにしているわけでもない。
それどころか、あたしが逃げ出せるような些細な空間さえも作ってくれている。
「……逃げないの?」
――あたしは、なにをやっているんだろう。
先輩がもうすぐここに来るっていうのに。
相手はあの森谷で、ヤツの顔がゆっくりと近づいてくるのに。
あろうことか、あたしはそれを受け入れようとしているし。


