†Orion†〜Nao's Story〜



心配そうにしている森谷が、あたしの体を跨ぐようにして上に乗っかってきて。

間近であたしをじっと見据えるもんだから、心臓がバクバクと落ち着かない音を立て始める。



たとえば。

自由の利くこの両手で。

森谷を力いっぱい押しのけたら、あたしはこの状況からきっと脱出できる。



それなのに――……

森谷に阻まれているわけでもないのに、自由なあたしの両手はピクリとも動かない。

森谷の体勢だって、あたしを逃がさないようにしているわけでもない。

それどころか、あたしが逃げ出せるような些細な空間さえも作ってくれている。



「……逃げないの?」



――あたしは、なにをやっているんだろう。

先輩がもうすぐここに来るっていうのに。

相手はあの森谷で、ヤツの顔がゆっくりと近づいてくるのに。

あろうことか、あたしはそれを受け入れようとしているし。