手はまだ震えるけど、 大丈夫。 左手も鍵盤を叩いて、 ペダルを踏んで。 音楽室の扉を開けたら、 奏先輩がピアノを弾いてた。 そのときの曲。 一瞬で私を虜にした曲。 奏先輩にはとうてい敵わないけど、 ちょっとでも届けって。 そう思って、 指先に思いを込める。 黒鍵も恐くない。 和音も恐くない。 大丈夫。 ここにあるのは、 好きな気持ちだけだよ。 キイ…… そうドアの軋む音を拾って。