その声で私の指は止まった。 私の後ろから伸びてくる手。 私のすぐ横から聞こえる声。 そのとき始めて気がついた。 私は泣いていた。 「ピアノは間違えないように弾くもんじゃない」 奏先輩の指が、高いソの鍵盤を弾く。 「“誰かに届けたい”と思って弾くんだ」 涙が零れ落ちた。 ねえ、じゃあ 奏先輩は誰に届けたかったの? 「……先輩」 泣いているせいで鼻声になりながらも、私は言った。